コラム

家計相談Q&A (第83回)老後の為に一戸建てを希望

※この原稿は、令和7年4月26日時点の税制・法律を基に作成しています。
Q:夫は間もなく定年で一旦退職する予定です。結婚以来、ずっとアパートで暮らしてきましたが夫と相談して今後は一戸建てを希望しています。定年後しばらく継続雇用となるものの、預金が少ない中で無事に老後を過ごせるのか不安です。余談ですが、夫は再婚で前妻との間に子がいます。別れて以来、一切交流がなく今後も関係をもつことはないと思います。

A:相談は主として住宅購入と老後資金に付いてですが、再婚という言葉が気になります。前妻の子にも夫の相続権があるので、相続が発生してAさんの生活に影響がないか検討が必要です。

 まず一戸建ての希望と老後資金に付いて。高齢期の住まいを考えることはとても大事です。夫は3年後の定年退職後も再雇用で65歳まで働く予定とのこと。弊社にて、ご希望の家のイメージをヒアリングした上で基本設計と概算見積を作成、これを基に資金面について将来家計簿で試算しました。お住まいの希望エリアは利便性からあくまで市内であり、土地から買い求めることになるので残念ながら新築は難しく中古一戸建てになります。予算は上限2,500万円前後になります。これに初期の改修費と今後定期的に発生する修繕費を加味して資金の安全性を確認します。なお中古住宅の場合、特に将来の修繕費が無視できない額になりますので要注意です。住宅購入時には貯蓄残高が一時的に500万円弱になりますが、退職金と65歳までの継続雇用の年収250万円(手取り)、公的年金と個人年金保険給付により夫100歳の時点で約700万円の貯蓄が残る計算です。

さて、万が一の場合、前妻の子(夫の実子)から相続権を主張されるとAさんが相続できる額が減り、場合によっては自宅敷地の保護が難しくなる可能性もあります。これに対して自宅を遺贈する内容の公正証書遺言を作成します。これによりAさんは配偶者居住権※の登記と同時に自宅の所有権の相続を行います。もし遺留分額の請求があっても金銭を支払えばよく、自宅を共有することは避けられます。公正証書遺言には手数料が掛かりますが、様式不備になるリスクが低く安心といえます。また相続財産を圧縮するために夫が、Aさんを受取人として終身保険に加入する対策も行います。保険金はAさん固有の財産となるため原則として相続財産になりません。保険金額は保険料負担との兼ね合いで考えますが、このケースでは他の相続財産の評価額から350万円が目安となります。

 以上を基に、夫が万が一の場合も想定し、その際の遺されたAさんの将来家計簿の試算を作成します。死亡時期が早い程、妻の老後への影響が大きくなるため、早めに亡くなった場合を想定して試算します。夫が75歳時で亡くなり、同時に前妻の子から遺留分侵害額請求があったとし、また終身保険の保険金350万円とした時、Aさんが97歳時点で約600万円の貯蓄が残る試算です。

※配偶者居住権は、令和2年4月1日以降の相続から設定できます。

【アドバイス】
(1). 基本設計を基に住宅購入予算と老後資金への影響を試算。
(2). 特に万が一や相続時の隠れたリスクに注意。
(3). 場合によって弁護士や司法書士との連携が必要です。

家族構成:
Aさん(松江市在住・52歳・専業主婦)、夫(57歳・会社員)、子(23歳・会社員)